戦前から画家のアトリエだった有形文化財建築でパーティもできる

中野区の駅から少し離れた住宅地に高い塀と緑に囲まれたシンプルな四角い建物がある。ひと目で普通の個人邸ではないことが分かる。この建物は、故人である画家の三岸好太郎がアトリエ兼住まいとして戦前の昭和9年に建てたのだが、完成前に他界してしまった。その後は妻の同じく画家である三岸節子がアトリエとして使用した時期もあったが、長い間、倉庫のような状態だった。今は、そのご子孫が主宰となってイベントや教室などでここを開放している。昨年は、建物保存のボランティア仲間からの協力もあって、国の登録有形文化財に指定されることができた。 この建物は、ドイツのバウハウスで建築を学んだ山脇巌が設計したものだ。中に入ると、大きな吹抜けのアトリエと一面のガラス窓が見上げられ、窓際のらせん階段を上れば、視線を連続的に変化させながらその空間を堪能できる。その洗練に、これが戦前に建てられた木造建築であることを忘れさせられる。 だが、至るところに経年劣化の傷みが見受けられる。玄関の壁面は一部が崩れ落ち、雨水の侵入を許している。2階の部屋の床は明らかに傾いてきている。大きなサッシの下部は腐食が見られ、構造柱の健全性にも懸念がある。大空間がゆえに、耐震強度において不利な面も否めない。有形文化財とはなったが、この貴重な建物を維持保存し続けることも容易でないことが想像に難くない。すなわち、相応の費用を要する。 維持費用を捻出するのには、賃料収入を得られるようにするのが最善策であるが、現状のままでは賃貸としては厳しいものがある。そこで、時間貸しの発想でレンタルしてもらう仕組みを提供する「スペースマーケット」に登録をした。スペースマーケットは、空いてる場所ならお寺でも球場でも映画館でも古民家でも、何でも紹介するマッチングサイトである。サイトを見ると、ユニークな場所の情報がたくさん得られる。それらの利用方法としては、パーティ、会議、研修など様々な提案がなされている。 このアトリエの最初の利用者は、コスプレイベントの運営者で、感性を刺激させられる空間でコスプレの撮影会を行い、参加者の好評を得た。この登録有形文化財がコスプレと結びつくことはあまり想像しなかったが、画家のための空間が、現代のアニメ文化と結びついたこともある種の必然なのかもしれないと思える。イベントの使用料収入は建物の維持保全に充てることができ、このような工夫を積み重ね、価値の高いストックが安易に取り壊しとならずに後世に残していけることとなることは幸いである。 スペースマーケット https://spacemarket.com/

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