保存か建替えかの考察~寄稿文『旧鎌倉図書館と私』

『旧鎌倉図書館と私 その三』 (発行者:図書館とともだち・鎌倉)

寄稿文 保存か建替えかの客観的考察 私がこの旧鎌倉図書館の解体問題を知り、関わりを始めたのはつい先月のことで、その解体について議会の承認が下りてしまった後になる。それから、見学会などがあって、建物の中を見る機会を得た。外壁や内部に長年の経年劣化による傷みが随所に見られ、痛々しい感じだったが、2階の談話スペースなど、外観の特徴にもなっている連続する縦長の窓が空間に独特の雰囲気を作り出していた。また、屋根裏部屋のような3階の書庫スペースでは、構造の木組みの様子がよく見て分かり、思ったよりも頑丈な作りだと思えた。木材そのもののコンディションには問題なさそうであり、建物倒壊の危険性など見た目ほど心配はないと感じた。木造でも、戦前に建てられたものは十分にしっかりしていることが多い。経験上、この建物を保存修復して、何らかの利活用を進めることは十分に考えられると確信した。なにせ立地が良い。鎌倉駅から徒歩わずか数分で、目立つ交差点に位置し、周囲は緑に囲まれた豊かな環境を形成している。

私は普段、建築不動産のコンサルティング活動をしており、古い建物をどうすればよいかという相談をよくお受けしている。クライアントが、単純には建替えたほうが早いと周囲から言われることが多いようであるが、必ずしもそれが正解とは限らず、建替え以外の方法との比較検討が不可欠である。基本的には投資の視点で数字での比較検証をする。そのほうが、評価手法が確立しており、ブレが少ないからだ。数字での損得をしっかり把握したうえで、「残したい」あるいは「新しくしたい」など気持ちの面も考慮して、結論を導くことをやっている。たとえ、気持ちがあったとしても、大損をするような選択は誰もしたくないものだ。 さて、旧図書館の場合は、鎌倉市をクライアントとし、保存か建て替えかの相談を受けたと想定して考えてみよう。まず、鎌倉市の現状を把握しなければならない。市の財務報告書などを見てみると、市税収入はかろうじて維持しているものの、社会保障費が年々着実に増加の一途をたどっており、財政を圧迫している状況は、他の自治体と何ら変わらない。一方、鎌倉市の財政で目立つのが公共施設の管理運営費項目の多さで、見方を変えれば施設の量的な充足が進んでいるとも言えなくはないが、内訳をみると、老朽化による維持費用の増大が先行きの懸念材料となっている。詳細は、「鎌倉市公共施設再編計画」にまとめられている。今後40年間での平均更新コストが、直近の予算と比べて3倍近くを要する試算が出ている。毎年30億を超える予算不足が起こる計算だ。それは、一般会計歳出全体の5%ほどのウェイトを占める。福祉費が毎年それと同じくらいの金額で増加していることを考えても、それを丸々捻出し続けることは不可能に近いことが分かる。 それで、公共施設再編計画では、公共施設の計画的な統廃合が提言されている。幸い、市民のアンケートをとると、公共施設への期待は低く、あまり必要性を感じないとする意見も多い。「こどもの家」も統廃合の対象となっている。統廃合の方向性が必ずしも既存建物を建て替えていくことにつながるとは限らないだろうが、いずれにしても、財政的には緊急事態であることを前提として考えなければない。 鎌倉市公共施設再編計画基本方針 http://www.city.kamakura.kanagawa.jp/keiki/documents/pfr_policy_digest_201304.pdf 公共施設再編と建物保存の問題との関係について、小松幸夫先生に話を伺うことができた。小松先生は、この鎌倉市公共施設再編計画策定委員会で副委員長を務められた方で、早稲田大学創造理工学部建築学科で教鞭をとられ、建物寿命およびライフサイクルの分野での権威である。まず、「公共施設再編の問題と文化財の保存の問題は全く別の文脈で検討する必要がある」としたうえで、「建物をそのまま使い続け、大規模改修など相当の費用が必要となる場合に、公共施設として維持していくことが難しくなるだろう。その費用は新築以上となることもあるし、また改修によりどこまで原型を保つかの議論もしなければならない。」「もし、建物の保存をするならば、一旦公共施設としての役目を終わらせ、保存建物としての維持費用を誰が負担し、誰が運用・管理するかの議論をすべきである。」とのご意見をいただいた。 市の財政が逼迫している中で、過大な改修費用と維持管理費の負担は避けなければならない。これは、建替えの場合においても同様である。すでに可決された予算では、建物解体、整地等で1億ほどの工事費が計上されており、その後、860㎡の分庁舎を建てる計画であるから、その建設費と合わせて総予算は3億は下らないと推定される。一方で、既存建物の改修費は、180坪(推定)ほどの規模から推察すると、1億程度であれば可能ではないかと考えられる。その場合は、初期投資額が3倍も異なってくる。

改修、または建て替えでは、その後の利用方法が重要となってくる。今の市の建て替え後のプランでは、1階をこどもの家とし、2階を市庁舎の機能として使うことを計画している。この場合は、市保有の財産で全てをまかなうので、外部収入も支出もゼロと考えられる。これに対して既存建物保存プランを考えてみる。まず、歴史の雰囲気を感じさせる外観とインテリア空間に価値を見出す民間事業者が賃貸をしたいとされることが十分に考えられる。カフェや雑貨店、あるいはオフィスとして利用したいというケースもあるだろう。鎌倉駅周辺の飲食店舗の賃料相場を調べると、駅に近いエリアで坪2万円の月額賃料が見込まれる。仮に、建物の半分はこどもの家として利用し、残りの半分を民間に貸し出すとすれば、年間1900万ほどの賃料収入が得られる計算だ。その代りに、見込んでいた市庁舎の拡張スペースが確保できなくなるので、それは別の場所で空き区画を探して借りるという想定をする。分庁舎に求められる機能にもよるが、あまり駅に近いロケーションが不要なものであれば、少し駅から離れた賃料が安いところで確保するのも一案である。仮に坪1万円の賃貸スペースを借りることができれば、その賃料支出は年間1400万ほどに納まる。これら収入と支出を差し引きすると、年間500万円の収益が得られる。建物保存案の場合は、この収益で、改修投資費を回収していくイメージである。この資金を長期の借入で調達できれば、市の財政への影響をなくす形でも計画が可能となる。

<鎌倉旧図書館の保存案、建替えの案の比較イメージ>

すなわち、既存建物を保存活用することで、より少ない投資額で、利益を上げながら運営していくことが可能となる。また、専用の施設として建設しないため、将来的な公共施設の拡張、縮小にも柔軟に対応しやすいという利点もある。特に、市の本庁舎に至っては、災害対応などの面からしても総合的な見直しが今後必要となってくる可能性が十分にあり得るため、関連する施設の利用計画では柔軟性があったほうがよい。ただし、既存建物の利用には用途転用などにおける法規制および技術的な問題もあるため、その面での調査検証を先に行う必要がある。管理運営についてのノウハウが不可欠であることは言うまでもない。しかし、そのように柔軟性を得ながら、日々のオペレーションでの工夫により、この文化的価値のある建物を広く開放し、将来にわたって保存継承できるとすれば、とても素晴らしいことであり、文化都市としての発展を願う市民憲章を掲げる鎌倉市のあり方としてふさわしい選択となるであろう。 >>迷走する鎌倉市 御成小学校旧講堂の惨状

>>戦前に建てられた鎌倉の木造図書館の解体問題

>>「旧鎌倉図書館の保存・活用をもとめます」(電子署名) 図書館とともだち・鎌倉 http://totomo.sakura.ne.jp/ 図書館とともだち・鎌倉 Facebookページ https://www.facebook.com/totomokamakura 図書館とともだち・鎌倉 署名用紙 http://totomo.sakura.ne.jp/2015/shomei.pdf

>> 活動日記一覧へ >> コンセプト「ストック活用」

どうすればいいのか分からない

自宅や賃貸アパート、ビルなど建物(不動産)もはじめの頃は問題があまりなかったものの、年が経つごとに次第に悩みが多かれ少なかれ生じてきます。気が付くと問題が山積みになっているというようなこともしばしば見受けられます。特に古い建物になればなるほど、そういった傾向が目立ってきます。

古い建物に共通する問題

  • 経年劣化による不具合の問題

  ……漏水、設備故障、ひび割れ、傾きなど

  • 建てた(買った)時からの時代の変化によるミスマッチ

  ……家族構成・勤務先・収入等の変化、時代遅れの設備・耐震・断熱性能など

  • 建物とともにオーナーも歳をとることでの問題

  ……定年退職、気力の低下、親の相続、自分の相続

ある築年数でこれらの問題が一度に押し寄せるため、「どこから手をつけていいのか分からない」という状況に陥りがちです。しかし、複雑に見えることでも冷静に整理すれば、たいてい不動産に関する問題解決のパターンとして大きく以下の5つが考えられるものです。

<問題解決のパターン>
1. 売る
2. 貸す
3. 建替える
4. 使い続ける
5. 上記の組合せ

AIRYFLOWのコンサルティングでは、これらの選択肢を洗い出すところからスタートし、それらを中立客観的にかつ長期的な視点で比較検討して具体的なアクションまでサポートします。

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