『新建築2月号』に掲載~変わりゆく「作品」の概念
建築の専門雑誌『新建築』と言えば、大正14年に創刊の歴史ある建築雑誌で、建築家の作品発表の場として最も一般的なメディアであり、掲載されることが建築家の目標でもある。私が建築学科の学生だった頃、大学図書館でずらりと並んだこの雑誌のバックナンバーを雲の上を見るような気持ちで拝んだ記憶がある。その権威ある雑誌に当社がコンサルティングを手掛けた改修プロジェクトが掲載されたのだから、驚いてしまった。 そのプロジェクトは下のリンク先で紹介されている。 古い一軒家をシェアハウスに改装/ユウトヴィレッジ南長崎 名誉あることとはいえ、驚きのほうが先に来てしまったのは理由がある。元々、新建築がそのような雑誌であるがゆえに、大物の建築家の立派な「作品」が美しい竣工写真と共に紹介されているイメージがあって、しかもその作品は基本的にピカピカの「新築」の建物のはずだった。少なくとも私が知っている新建築はそうだった。美術館や斬新なデザインのオフィスビル、商業ビルなどが載る華やかなイメージだ。一方、ユウトヴィレッジのプロジェクトは、昭和レトロなどこにでもあるアパートを外観そのままで、中も間取りは変えたものの、基本的な柱や梁はそのまま残して、床や壁をきれいに仕上げ直しただけで、正直言って新建築に作品として載せるほどのものではないと自分は思っている。 それでも、特筆すべき点を言うならば、ユウトヴィレッジのユニークな点は、そのソフトにある。入居する予定の人と一緒にDIYをやりながら作り上げていくプロセスや、完成後も、生け花や習字をやったり、映画を観たりのイベントが行われるなどのプログラムがすごいのだ。提携農家から有機野菜が住民用に定期的に届けられたりもする。これは、元々、長田さんが大規模マンション向けに開発したサービスシステム『ユウト』がベースにあって、これをシェアハウスに応用展開したものだ。システムが出来上がっているから、矢継ぎ早に第二弾(ユウトヴィレッジ品川宿)もできている。 新建築が時代の流れに合わせて変化してもきているのかもしれない。掲載された2月号をぱらぱら眺めると、新建築らしい立派な建物もやはり多く載っているが、かつての新建築では見られなかった古い建物がリノベーションされたものも複数紹介されている。日本が経済的な低成長時代に突入していて、新築工事が減っていて、一方でストックを重視する流れも年々強くなっている。建築雑誌として生き残るためにも、「新」にばかりこだわってはいられないという台所事情も見え隠れする。そうやって、ストック重視のプロジェクトにスポットライトを当てることはいいことだと思うし、願わくば、今回のプロジェクトが珍しいものでなく、もっと社会的にインパクトのある改修事例が新建築の紙面を大きく飾るような時代が来てほしいものだ。
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