研究学園都市つくば市の新たなる挑戦
つくば市は、「研究学園都市」として、元々は農地が広がっていたような場所に一から作り上げられた街で、昭和44年に建設が開始され、これまで2兆6千億円もの国費が投入されてきた。人口は22万人で、9年前につくばエクスプレス(TX)が開業してからさらに沿線開発により人口を伸ばしている。開発と言っても、東京都心に比べれば十分にゆったりした街並みで、駅前には公園が広がり、ペデストリアンデッキ(歩行者専用通路)が縦横に延びている。標準的な住宅地も広めの区画で、少し離れればまだ田園風景だ。遠くには筑波山がそびえる。特に大学や研究施設は、広大な公園の中にあるような緑豊かな環境で、なおかつ手入れも行き届いていて、整然としている。研究学園都市の名にふさわしい街並みと言える。 それを支えてきたのは税金に他ならない。中心部には広大な公務員の宿舎団地が広がっている。これら施設に対して、平成19年から国が削減の方針を掲げており、すでに2万2千戸が処分されてきた。今では戸建て宅地や民間の高層マンションに建て替わっている。しかし、かつての公務員宿舎は樹木を多く配置された「つくばらしい」景観を形成していたのだが、今となっては東京のどこにでもあるような街並みになってしまいつつある。そのことに市が危機感を抱き、「つくばプロモ会議」が立ち上げられた。今回は、HEAD研究会の主催で、民間事業者も多数参加して、実際の公務員宿舎売却予定地を題材に、その活用方法などをグループワークで議論した。中には筑波大学の学生も参加していた。 議論の前にまち歩きをした。まず感じたのは、まさしくこのガーデンシティと呼べるような独特な街並みをなるべく活かし、残していくのがよいのではないかということだ。新しくマンションなどを建てれば、どうしてもありきたりなものにしかならない。仮にありきたりでないものを新たに作ろうとしても、その開発費用の採算が合うほどの分譲価格が得られなければ民間での開発は不可能となるが、つくば市の住宅相場では、それがかなわず、より高く、より大きく、より敷地いっぱいに建物を建てなければ採算が合わないだろう。それは要するに、普通のマンション街になってしまうということだ。独自性を出そうとすれば、今ある建物を活かすのが近道である。ただ、公有地を売却することが前提であると、それを買った民間事業者が何をどう建てようと勝手となってしまう。何らかのスキームが必要である。 グループワークでは、公務員宿舎の敷地の議題を超えて、つくば市全体の将来像にまで議論が及んだ。産業のこと、観光のこと、教育のことなどだ。特につくばエクスプレス(TX)のインパクトはやはり大きい。TX開業によりつくば市が東京のベッドタウンとなり、人口増大に貢献している。一方で、ベッドタウン化は、夜間人口と昼間人口とのギャップを広げ、平日昼間のにぎわいをそいでいく傾向になる。そもそも、TX開発関連で道路整備なども含めて多額の資本整備をしてきているので、人口を増やして税収を上げていかなければ借金が返せない。つくば市の高度成長モードのスイッチはすでに押されてしまっていて、もう止められないところに来ている。そんな中でも、何とか独自性を維持していかなければ、つくば市の将来は厳しいだろう。ただのベッドタウンであれば、もっと都心に近いところのほうがいいわけで、あえてつくばに住む必要性がなくなる。そうなれば、つくばがゴーストタウンになってしまいかねない。つくば市は、これまで築き上げてきた都市資産がある。このポテンシャルを活かせば、誰もが憧れるような美しく活気のある街になれると思えるだけに、放っておけない。
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