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『空き家幸福論』が示す日本の未来像とは



『空き家幸福論』という本を世に出して、3年近くが経つ。この本を執筆していた当時は、コロナ禍真っただ中で、世界中の人々が不安の中で日々を送っていた。出版の企画そのものは、コロナ前だったが、本の内容は偶然にも、コロナ後の未来を予言したかのような一面もあった。コロナ禍を経験したことで、日本人の意識が大きく変わった。


「家いちば」というセルフサービススタイルの個人間で不動産を売り買いできるサイトを運営しているが、そこで日々取り交わされている売り手と買い手の商談のようすを見ていて、そう感じる。人々の人生観が変わった。それは、コロナ以前から兆候はあった。そのひとつが、「二拠点ライフ」である。普段は都心で働き、生活をするが、月に何度かは田舎や郊外の自然豊かな場所で過ごすライフスタイルだ。いわば別荘やセカンドハウスといった類で、それを「金持ちの贅沢」ととらえる人もいるだろうが、本人はそういうつもりでなく、「内なる心の声」に素直に従って生きているように見える。そんな二拠点ライフも決して楽ではない。複数の拠点を維持するのにそれなりのエネルギーを使う。それが、コロナによって自由度が増えた。リモートワークが社会習慣の中で広く認められるようになったことも大きい。これにより、従来から二拠点ライフを楽しんでいた人にとっては追い風となり、元々いつかはやってみたいと考えていた人にとっては、そのハードルが一気に下がった形だ。


二拠点、あるいは多拠点ライフ(マルチハビテーションとも言う)のインパクトは大きい。空き家問題は、もうこれで解消できる。国内の一軒家の空き家が5百万戸ほどあるが、これは、日本の全世帯5千万戸のうち「10軒に1人」の人が二拠点目を持つとすれば、それだけで空き家がゼロになる計算だ。むしろ、空き家が足りなくなって「奪い合い」にあることすらあり得る。その根拠は、家いちばを運営していて感じるニーズの広がりにある。実際に、家いちばで家を買った人のうち、「すぐに引っ越す」というすなわち移住目的の人は3割程度でしかない。残りは、セカンドハウスや「遊びの拠点」のようなノリで空き家を買っていく人たちだ。


空き家が安く売られていることも、大きな要因だ。土地付きの一軒家が数百万で買えてしまう。これなら、都心で買う予定のマンションの面積を1割減らして安く買えば、その分で田舎の空き家が一軒買えてしまう。多少の修繕が必要なことも多いが、それすらDIYでやってしまう人も多い。物件購入者の5割以上が「DIYをやってみたい」という考えをもっている。


果たして、多拠点ニーズは今後さらに広がっていくのだろうか。欧米のドイツでは「クラインガルテン」と言って、都心から離れた郊外の庭付きの別荘で週末を過ごす文化がすでに根付いている。主に家庭菜園などして過ごす。こういう生活に憧れる日本人は少なくないはずだ。さらにこれに、日本特有の事情も加味されるだろう。自然災害による避難先として二拠点目を確保しようとするニーズである。ご存じ、日本は、台風や洪水、地震、土砂崩れなどの自然災害が多い国だ。ひと昔前なら、いざとなれば「田舎の実家」に身を寄せる手段がとれたものだが、最近はそんな田舎もなくなった都会人も多いのではないだろうか。田舎の実家を自分で用意しなければならない時代になってきた。空き家がそれらニーズの受け皿になる。そもそも、全人口が減り続ける日本において、移住だけで空き家問題は解消できるものではない。他拠点ライフを推進する政策があってもよいくらいだ。


このように、空き家問題はすでに解決した、と言っても過言ではない。しかし相変わらず、テレビや新聞では空き家問題を騒いでいる。「問題、問題」と言いすぎるから、空き家の所有者が委縮してしまって、空き家を市場に出さない、という悪循環を生みかねない。「問題な空き家は解体してしまえ」という風潮にも疑問がある。たいていのボロ家でも、ほしいという人はたくさんいる。それをお金をかけて解体してしまうのはナンセンスだ。空き家を流通させることで、多くの日本人のニーズを満たすことができ、そこから幸福度の高いライフスタイルを楽しむ人が増えていく可能性があるのに、その芽を摘んでしまってはいけない。この流れは止めなくてはならない。


『空き家幸福論』(日経BP社 藤木哲也著)

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古民家で二拠点ライフを楽しむ米国人


週末はDIYで作ったツリーハウスと渓流で自然に触れ合う生活


古民家を買って仲間とDIYを楽しむ

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