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<再考>築地市場移転でよかったのか、今さら検証



賑わう築地場外市場

「築地市場」の移転やコロナ禍を乗り越え、飲食店や海産物を扱う食料品店、道具店など約460店がひしめき合う「築地場外市場」が再び活気を取り戻している。特に平日でパッと見た感じでも8〜9割をアジアや欧米からのインバウンド観光客が占め、プロが目利きした食べ歩きや食材、包丁等日本の調理道具を買うなどを楽しむ多種多様な人種で賑わっている。また、周辺にも場外市場を訪れるインバウンド観光客むけに寿司の調理体験や和装の着付け体験教室等ができたりと、エリア一帯で盛り上がりを見せている。その場外市場の隣”場内”には、かつて”人より魚がえらい町”とも称された「築地市場」(東京都中央卸売市場)が2018年10月まで営業していた。


築地市場跡地の入札

先日、「都心最後の一等地」とも呼ばれる「築地市場跡地」敷地面積約20ヘクタール(六本木ヒルズの約2.5倍)に複数グループの提案があった(提案提出期限:2023年8月末)と報じられている。中でも三井不動産を中心とする企業グループが提出した複合開発案は、多目的スタジアム建設を含み、読売新聞、トヨタ自動車、朝日新聞社、鹿島、大成建設、清水建設、竹中工務店等複数社が出資しSPCを組成、総事業費は8,000億〜9,000億円が想定されるとのことだ。弊社で以前に地価公示から試算したところ土地代だけでも約1兆5千億~2兆円(詳しくは、下記参照)、70年の貸付期間や東京都へ支払う貸付費約100億円/年、建築費等を考慮に入れても割安な額と考えられる。


銀座〜築地エリアのこれから

2024年3月頃に事業者が決定、2030年前半には『水と緑に囲まれ、世界中から多様な人々を出迎え、交流により、新しい文化を創造・発信する拠点』が開業予定で、今後もまだまだ目が離せない。この再開発事業により、築地エリアと東銀座エリア、銀座エリアとが一体となった賑わい空間が形成され、商業施設や店舗、タワーマンション等住宅が増え更に街が発展すると考えられる。また、単に新しい施設や建築を作るだけでなく、隣接する浜離宮の大名庭園の緑や戦災に耐えた明石町や旧木挽町(歌舞伎座周辺)の風情、隅田川の水運・舟運と相まった地域独自のストーリーやストックを活かしたエリアマネジメント、エリアブランディングに期待したい。



「築地地区まちづくり概要」東京都


HIGASHI GINZA(東銀座エリアマネジメント)


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(2017年1月3日掲載)

築地市場の移転問題がなかなか決着しない。当初予算では4500億の移転費用だったのが、すでに6000億を超えてしまっている。土壌汚染の安全性は最優先でクリアしなければならない課題だろうが、移転延期による補償や維持費などあらたな問題も出てきていて、納税者としてそっちも気になる。そもそも移転しないほうがよかったんだと、今さら言い出す人もいる。それであらためて、移転がよかったのか、不動産的な視点で簡単に検証してみたい。もちろん、今さら移転を反対するつもりは全くないが、振り返って検証してみることで、今後の課題が整理される面もあるかもしれない。 築地市場の土地は2兆円くらい まず、この6000億という投資額についてだが、東京都もこれについては大部分を現在の市場の土地を売却することで埋め合わせるつもりだ。この土地が23万㎡(約7万坪)あり、路線価でみると単純計算で3100億くらいだ。これを実勢価格におきかえると、4000~5000億くらいになるだろう。しかしこれはあくまでも通常の土地相場で、この都心で最後と言われる大再開発の用地であるから、参考に汐留の地価公示で置き換えると、1兆5千億~2兆円くらいになってもおかしくない。なので、4500億の予算がちょっと増えたくらい、たいしたことではない(…と職員も思ってるのだろう)。ちなみに、東京都の税収は年間5兆円程度、特別会計なども合算すると13兆円にものぼる。都の会計の1割近くの規模の案件なので、決して小さい金額とも言えない。


税金を「食いつぶす」施設にならないように さて、収益面だが、小池都知事が会見で、「豊洲新市場の電気代などの経費が1日2100万もかかり、築地の400万よりも大きいので経費削減に努める」というようなことを発言しているが、それぞれ年間で計算すると、築地の14億円に対して、豊洲が76億円ということになり、60億ほど年間の維持費が余計にかかるということになる。ただし、建物の面積が今の28万㎡から41万㎡に増えるから、それを仮に坪単価1万円(都内の賃貸ビルの相場よりやや低め)として換算すると、床面積が増えることにより年間160億円だけ収益(見なし賃料)がプラスになると見込まれる。それであれば、維持費が60億増えたとしても、赤字にはならない。 気になるのは、建築費が990億の予算だったのが、最終的に2800億ほどになっていることだ。予算よりも3倍近く跳ね上がったことも確かに問題ではあるが、長い目で考えた時、実は、当初かけた建築費に比例して、将来の維持費もかさんでくる、ということを見過ごしがちだ。統計的に、年間で再調達価格(すなわち建築費)の2%~4%ほどの資本的支出(修繕費などのこと)がかかると言われているから、これで推計すると、毎年50億~100億くらいの維持費がかかる場合が起こり得る。これが、この施設から生み出される収益でまかなっていければよいが、そうでない場合は、毎年税金を投入しなくてはならない「金食い虫」の施設となってしまうおそれがある。ここを気をつけなければならない。

東京都がやるべきこと 築地市場は、水産部門だけで1日16億円もの取引をしている。青果部門と合わせると、年間7000億円にものぼる巨大市場だ。これに設備が増強され効率的になり、床面積も増えて、そうすると1兆円を超えてもおかしくない。いや、それくらいに成長してもらわないと、維持費がまかなえない。市場利用者からの施設使用料も増やしていかないとならないということになる。新しく設置する「千客万来施設」という商業ゾーンの売上も期待されるところだろう。 元々は、築地市場も、今の敷地で建て替え整備する方針だった。しかし、予算の見込みが3400億円にも膨れ上がり、運営しながらの改修工事が物理的に困難ということもあって、「新しく建てて、移転したほうが早い」という結論に平成8年に決まった。移転して設備が新しくなることで、温度管理もできるようになることも大きい。昨今の一般の人の衛生感覚からすると、今の市場はかなり不衛生に見える。これが衛生的になるならば、消費者としても歓迎すべきことである。ただし、そのコストについては、最終的にはその恩恵を受ける消費者が負担すべきであるだろう。都は、市場の維持にコストをかける代わりに、施設利用料を値上げし、市場業者はその値上げ分を魚の価格に上乗せしなければ商売にならない。すなわち、東京都が最もやるべきことは、新市場により流通される商品に付加価値がつくような啓蒙活動、あるいはマーケティング活動ではないだろうか。

歴史ある市場を移転する覚悟 さて、移転判断についてだが、上記のように、条件付きで可とする。すなわち、施設が最新化され、かつ規模も大きくなることで、それにより当然に経費も上がるが、それを上回る利益を上げられるように、適切に施設利用料などを設定し、なおかつ、そのしわ寄せを市場業者に押し付けるのでなく、新市場で取り扱う商品の付加価値をつけて価格に反映させて、それを消費者が納得して買えるような全体のシステムを構築することである。なかなか容易なことではないが、それをやる気がないなら、3400億円をかけて改修して、今の市場のままやっていくのがよかったということになりかねない。築地市場は、戦前の昭和10年に開場し、80年の歴史を誇るものだ。いまではたくさんの外国人も押し掛ける大観光地にもなっている。それはただ単に魚目当てにやってくるものでなく、日本らしい文化に触れられる体験を求めてやってきているのだろう。新市場の近代施設でそれの替わりが務まるのかは未知である。過去の「遺産」を捨ててまでの移転なのだから、相当の覚悟がいるのは間違いない。

<参考資料> 東京都中央卸売市場HP、東京都 http://www.shijou.metro.tokyo.jp/info/01/ 築地市場の移転整備、東京都中央卸売市場 http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/book/pamphlet.pdf 東京都の財政状況と都債、東京都財務局 http://www.zaimu.metro.tokyo.jp/bond/tosai_ir/ir/26irspring_data.pdf

場内にある市場関係者用の売店

場内の市場にも外国人の姿をよく見かける

狭いスタンドの珈琲店

場内には豊洲新市場を詳しく紹介する展示もある

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