老舗温泉街「湯河原」に現れた外国人向けゲストハウス的旅館
この3月に、外国人が日本の魅力を一度に味わえることをコンセプトにしたユニークな旅館が湯河原にオープンした。最近、不動産の有効活用の企画をしていて、「インバウンド」というキーワードが出てこない日がないくらいになっていて、その最前線の状況を見なければという思いもあって、泊りがけで行ってきた。ちょうど、この旅館の立上げメンバーのYさんからのお誘いもあって、その苦労話も聞くよいチャンスとなった。 The Ryokanの特徴は、「外国人から見た日本」をコンセプトとして、これまでの常識を徹底してゼロから見直してみたところにある。まず、外観やインテリアを見ると一目瞭然、日本人である我々からすると違和感のあるデザインで、「どこかにありそうでどこにもない」建築様式がテンコ盛りだ。それをあえて狙ったのがThe Ryokanである。「ゲイシャ・フジヤマ」の幻の世界観を現実化したようなテイストだ。 The Ryokan Tokyo http://theryokan.jp/yugawara/ エントランスゲートの赤いアーチは伏見稲荷をモチーフにしているが、鳥居でもなんでもなく色彩を模しただけだ。そして、エントランスホールで出迎える巨大な提灯は、浅草寺のそれとすぐ分かる。分かりやすくて笑ってしまうくらいだ。ラウンジには、奈良の大仏や飛騨高山の大きな写真が壁一面に貼られている。ここは、奈良でも飛騨でもないのにもかかわらず、だ。しかし、これらには明確な意図があって、「ここにきて、赤いアーチをみて、やっぱり実物を見たいと思ったら、次に日本に来た時にでも京都に行けばいい。はじめて日本に来る外国人にぜひここに来てほしい」という考えに基づいている。そのほか、コスプレ体験ができるサービスがあり、習字やコマ遊びなどもできる。まずは日本文化のさわりだけでも体験してもらおうという、なかなか欲張りな施設である。
習字体験ができるコーナー
そういった戦略は、料金にも現れている。ドミトリー(相部屋)なら、1人1泊3000円から宿泊できる。和室の個室は1室1万2千円からだが、4人で寝泊まりできる広さなので、これも格安と言える。自ら「LCC(ローコストキャリア)旅館」と称して、まるでLCCの航空会社のように合理的でかつウィットに富んだ気の利いたサービスを提供していくことを目指している。それを実現するために、あらゆるコストカットに努力している。もともと、保養所で使い道がなくなっていた建物を安価に買い上げて、改修をしているが、客室や浴場など、既存のままでもいいところは極力そのままにして、徹底的に改修費を少なくしている。ラウンジの飲み物はセルフサービスで、朝食は自分で作る「おにぎりバイキング」となっていて、このように運営コストも徹底して削減している。それでいてチープで不便にならないように知恵を絞っている。 ユニークで思い出に残る体験ができて、それでいて安い。こういう旅館があることで、海外から日本に遊びに行ってみようと考える人がもっと増えていくと思う。ビジネスの側面で言えば、差別化であり、競争でもあるが、顧客のパイを増やしていくことも大事なことだ。さて、ここ湯河原というある種保守的な温泉街にあって、地元の反応がとても気になっていたが、今のところ賛否が半々というところらしい。もともと、外国人は積極的に受け入れない姿勢だった湯河原にあって、それを堅持したいという旅館もあれば、外国人でも温泉街が賑やかになればそれがいいという声もある。 あらためて湯河原の街を見て回ってみると、町一番の観光スポットである不動の滝や万葉公園にしても、施設が寂れていて、サービスも低下しているのも明らかだった。今のままでも湯河原のいいところはあるが、やはり変わっていくところは変わっていくべきではないだろうか。こういうことは、ここ湯河原に限らず、日本の観光地に至るところで言える課題と思う。それらに一石を投じるこのThe Ryokan事業の今後の展開が楽しみである。
不動の滝 期待を裏切られる観光スポットのひとつ
万葉公園 巨大な足湯施設で賑わうが、背後には廃墟の構造物に囲まれる
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